小野正嗣「ムク」(『新潮』12月号)

 場所の記憶、歴史、個人の記憶といったことが重層的に描写される。文章が小野正嗣独特の表現方法なのでとっつきにくい部分もあるけれども、それでも面白いところがある。最後まで読むとなんかすっきりというか、ひとつの形としてまとまったという感じはあるんだけど、その筋で読むのもありだろうし、それこそ記憶というところで断片を楽しむのもありなんだろうなぁと思いながら読んでみた。
 場所に関わる記憶というものでいえば、大江健三郎もある意味そうだろうし、保坂和志なんかも別のやり方で提示していると思うし、そのほかにもいろいろなひとが試みているとは思う。