青来有一「貝」(『文學界』2006年3月号)

 今回の小説も長崎を舞台にしている。
 真夜中に海が押し寄せてくると感じる「ぼく」が朝目覚めるとその証拠となりそうな貝殻を見つけるということから小説が始まる。貝殻を集めるなかで亡き娘の記憶がつぎつぎに想起されてくる。
 ゴミ捨て場で会ったおじさんと、「ぼく」の娘について、おじさんの妹について話す。娘も妹も同じ日に亡くなっていることがわかったり、おじさんの妹の過去について知ったり、そしてその妹が真夜中に海が押し寄せてくるというふうに言っていたことも分かる。その妹の過去に長崎と原爆が関わってくる。
 「ぼく」がゴミ捨てに行って、おじさんに会って、おじさんと「ぼく」が会話する。その会話の最後の最後でスーッと結末に至るわけなんだけど、その結末がなんともいえない感じがする。うまいと言えばうまいのかなぁ。小説そのものがほつれるという感じか。