玄侑宗久『アブラクサスの祭』

アブラクサスの祭 (新潮文庫)

アブラクサスの祭 (新潮文庫)

 精神の病、宗教、ロック。
 社会との葛藤、自己との葛藤はロックにもあるし、それは宗教にもある。精神の病にもあるんじゃないか。だけど、そんなことはたいていのひとが知っている。その既知のことを改めて小説という形式にしたといってもいい内容。
 主人公の浄念からの視点、躁のとき欝のときの書き換え、それと浄念を周りから見ている玄宗や麻子、多恵からの視点による多角化。そのような形式から、浄念の動きが内部と外部から描かれ、同時に周りのひとたちの心の動きも描かれて、厚みが出てはいる。浄念の思考だとかにすごくふれ幅があることで逆にある種の人間性が出ている気もした。
 それとやっぱり「言葉」についての思考が興味深い。