エマニュエル・ダーマン『物理学者、ウォール街を往く。』

物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進

物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進

 原題は「My Life as a Quant」。なので、ダーマンのクオンツとして働いたときのことを書いている。けれども、本書の半分は、ダーマンが10代後半から物理学者を目指していく過程で占められている。ダーマンが学んだコロンビア大学における物理学者の生態、学生の生態、そしてその時代にホットだった素粒子物理学の研究動向、それとダーマンがどういう博士論文を書いたのか、ドクターを取得後ポスドクとして研究所を転々としたことなど。
 そして、その話が終わってやっとダーマンのクオンツ時代の話へとなる。クオンツがどんなことをやっているのか、ダーマンが働いていたゴールドマンサックスにはどういう人たちがいたのか、ブラック・フィッシャーの人間性とか、それこそダーマンが働き始めた時期は金融技術(金融工学)が生まれ発展していった時代なのでそれがどういう展開をしてきたのか、などなど。
 その中でもスリリングなのは、ダーマンの研究だろう。ブラック・ショールズモデルの話から、局所ボラティリティモデルへとどういう風に拡張していったのか。その説明はすごくわかりやすくて勉強になった。
 物理学者として理論を突き詰めてきたひとが、クオンツとして実務に入り、そこで金融理論との格闘をする。そのなかで、理論と実務とはなんだろうか、というふうに考えた思考が、最後のほうに書かれているけれども、これについては結構ふつうな感じがした。
 普通ではあったけど、その関係を常に頭にもっている必要はあるなぁ、とは改めて思った。