小島信夫『うるわしき日々』

うるわしき日々 (講談社文芸文庫)

うるわしき日々 (講談社文芸文庫)

 『抱擁家族』の30年後とかいわれる『うるわしき日々』だけれども、それだけでは済まない小説だった。というか、『抱擁家族』と『うるわしき日々』の間にも小島信夫は作品を出し続けているわけで、それを無視しちゃいけないかと思う。そういう意味でも、そして小島信夫の作品をもっと読みたいという意味でも、その間にある諸作品を復刊してもらいたいものです。
 で、感想なんですが、「人間」についてやっぱり書いているんじゃないかと。『抱擁家族』の社会性みたいなものを剥ぎ取ったものなんじゃないかと。そういうふうに感じながら読みました。たびたび出てくる「若い小説家」の最後に出てくる手紙の内容はかなり意味深なんですが、それはそれとして、夫婦、家族、人間関係、記憶だとかいろいろとテーマは拾えるけど、その下にある「人間」について書こうとしているんじゃないだろうか。たぶんそんなことも考えずに小島信夫は書いているんだろうけど、いろいろなエピソードの断片から感じられるのはそれをめぐることなんだろうと。勝手な読みですが。