小島信夫『抱擁家族』(講談社文芸文庫ISBN:4061960083)

抱擁家族 (講談社文芸文庫)

 これも江藤淳の『成熟と喪失』(ISBN:4061962434)や加藤典洋の『アメリカの影』(ISBN:4061591827)で触れられているのを見たことがあるくらいで、きちんと読むのは初めて。
 読んでみると、確かにこの小説の前半は評論で扱われているような「母の崩壊」であったり「アメリカの影」というテーマを感じられる。けれども、小説としては、後半をどう扱うかも大事なんじゃないかと。妻の時子の死後の、山岸を家に入れたり女性に執着したり突然に再婚をしようと早まる三輪俊介の行動、それを取り巻く良一やノリ子の関係を通じて浮かんでくる「人間的なもの」のほうが重要じゃないかと。それは前半での時子との関係であったり、家を建て替えたりすることであったりとも通じるし。
 子供っぽい大人ということで捕らえるとするなら、星野智幸が著作『在日ヲロシヤ人の悲劇』について書いているエッセイ「娘たちよ、父を殺せ!」http://www.hoshinot.jp/wrusian.htmlにも通じるんじゃないかと思う。
 いずれにせよ、時代性や社会性を排除しても、小島信夫抱擁家族』をいま読んでも十分楽しめるなぁと感じられた。