石川忠司『現代小説のレッスン』

現代小説のレッスン (講談社現代新書)

現代小説のレッスン (講談社現代新書)

 現代小説の面白さを近代文学との比較を通じて分析する評論。現代小説が何を書いているのかではなくて、「エンタテイメント化」という用語を通じてどのように書かれているかに重点を置いているのが、真っ当だなぁと思った。
 なかでも1章の村上龍論と2章の保坂和志論は面白かった。村上龍の語り口の特徴を的確についていると思うし、それによって小説の読みやすさを生み出しているという部分にはなんだか納得する。
 3章と4章の半分の村上春樹論は分析としてはありだし、村上春樹という存在は大きなものだから紙数を割くのもわかるんだけど、なんだか「エンタテイメント化」からは浮いてしまったんじゃないか。
 それと阿部和重を論じるところで、日本語の「ペラい」こと(=貧困さ)を中心にしているけれども、これは日本語に限定していいんだろうか。言葉自体に孕まれていることなんじゃないかと。
 5章は雑多な感じがしたんで、ぱらぱらとしか読まなかったのだけれども、「内言」の話でまとめちゃうのが良かったんじゃないか
 なんだかんだと批判してはいるけど、この本は面白かった。面白かったというのは、読者の思考をも働かす力を持っているということ。そして、仲俣暁生と同様に、現代小説と同伴していく姿勢が読者には嬉しい。