夏目漱石『坊っちゃん』

坊っちゃん (岩波文庫)

坊っちゃん (岩波文庫)

 小林信彦「うらなり」を読む前に読み直してみた。文章のノリがいいんでスラスラ読める。
 うらなり君がどんな人間かは意外と分かりにくくて、「おれ」が見て感じるうらなり君しかほとんど分からない。というか、ふつうに『坊っちゃん』を読んでいるとうらなり君はあまり記憶に残らず、「おれ」と山嵐、赤シャツ、野だ、狸、あるいは清だとか下宿の御婆さんのほうが記憶に残る。「なもし」がとても頭にこびりつく。
 なので、うらなり君は逆に想像を膨らませやすいのかもしれない。
 いずれにしても「おれ」の無鉄砲ぶりがとにかく面白いし爽快だなぁと。

考えて見ると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。

金や威力や理屈で人間の心が買える者なら、高利貸でも巡査でも大学教授でも一番人に好かれなくてはならない。中学の教頭位な論法でおれの心がどう動くものか。人間は好き嫌いで働らくものだ。論法で働らくものじゃない。