川端康成『雪国』

雪国 (新潮文庫)

雪国 (新潮文庫)

 東京に雪が降ったからというのもあるんだけど、積読中の文庫から取り出して読んでみた。
 小説の書き出しがあまりに有名で、それしか知らなかったんだけど、その後の島村が葉子を窓の反射を通して見つめる描写も印象に残る部分だった。その部分は結構映画的だなぁとも思う。
 小説そのものは、無為徒食の島村が温泉場で芸者の駒子と出会い、漠然と別れを感じるまでのお話ではある。とはいえ、筋らしいものはあまりなく、島村が感じたもののみが島村の目を通して作者が文章にするという感じで、抽象的といえば抽象的なものだと思う。抽象的であるがゆえにというか、島村の生き方、あり方が空虚であるように(それこそ鏡であるように)文章からもその空虚感というか徒労感というものが感じられてくる。
 そんなことを思いつつも、僕は単純に古井由吉の作品にも似ているなぁとか思っていた。駒子や葉子の切迫した感じ、ある種ものぐるいになりかけている感じというのが、そのように思わせた。古井由吉の作品の場合、さらに男のほうもそっちのほうへと引きずられる感じがあるんだけれども。