玄侑宗久『御開帳綺譚』

御開帳綺譚 (文春文庫)

御開帳綺譚 (文春文庫)

 「御開帳綺譚」と「ピュア・スキャット」を収録。
 「御開帳綺譚」が面白かった。記憶のあいまいさ(不安定さ)、心の揺らぎ、あるいは自らの存在の揺らぎなどといったことが現れ、いまを生きることの不安定さ、基盤の弱さみたいなのが露呈していて、じゃあ僕らはどうすればいいんだという感じがしはじめる。玄侑宗久は最後の最後にやはり救いを置いてくれている。そのある種救いの瞬間は、おそらく(というかたぶんきっと)その瞬間にしかないもので、それ以外は不安定さの中で生きるしかないんだろうと。逆にいえば、その一瞬のために生きているともいえるかも。まぁ、そんなことをあれこれと考えさせられた読書体験でした。