平野啓一郎「顔のない裸体たち」(『新潮』12月号)

 数ヶ月前に発表されたようなどう反応していいのだか分からない類の短編ではなく、オーソドックスな中篇。
 内容は、ある事件についてのお話、と言っていいのだろうけど、語られているのはその事件そのものというよりもその事件へと至るまでの女と男について。あらすじをまとめるのが面倒なんで、読んでちょうだいな、としか言いようがない。とにかく現代性のあるテーマではあると思う。
 瞬間的感想メモ。
 今作の語り口も平野啓一郎にとっては新たな試みだったと思う。それと、扱われている素材はともかく、ネット空間と人間との関係みたいなものはうまいこと描かれているんじゃないかと。人物という器に流布されている言説を組み込むとこんな感じの人物が動き出す感じもするし、そういう小説の立ち上げ方以前の問題としていまを生きる人間がネット言説などに影響されて動いてしまっているような感じも出ているし、単純にこうとは言えないものが描き出されてると思う。小説の最後のほうのふざけ方というか話に落ちをつける感じが少し阿部和重っぽいなぁとも思った。