青山真治「サッド・ヴァケイション」(『新潮』9月号)

映画作家でもある青山真治氏の「サッド・ヴァケイション」(400枚)は、「Helpless」「ユリイカ」に続く、〈北九州サーガ〉第三部だ。氏において小説と映画の関係はそれ自体が創造的だ。映画において徹底的になされた思考が小説に反映され、またそれが映画に送り返される。「ユリイカ」がカンヌ映画祭で二部門受賞に輝き、小説版が三島由紀夫賞を受賞した後で、青山氏の得た作家的成長のすべてが「サッド〜」に直結し、血縁の呪縛とそれへの抵抗が織り成すサーガ世界は、深さを飛躍的に増した。北九州を神話的空間に変容させようとする欲望と、その欲望への批評的な意識が火花を散らす
『新潮』編集長・矢野優http://www.shinchosha.co.jp/shincho/200509/editor.html

 なんとなく読み始めたら、「Helpless」「ユリイカ」の続編で、登場人物たちが勢ぞろいといった感じだった。小説で「Helpless」「ユリイカ」を読んでおらず、映画で見ただけのせいか、映画のシーンが想起されて、その分だけこの小説を映画化してほしいなぁと思う。
 ストーリーとしてはまさに血縁の呪縛とそれへの抵抗が織り成すサーガ世界で、白石健次が自らの血に振り回されるというのが中心。まぁ、そんなことはともかく、野球帽が川に流されていく場面とか、ラストのシャボン玉が漂う場面とか、小道具がうまいなぁと思う。
 とはいえ、映画とは違って、さまざまな視点から、健次やユリ、秋彦、冴子、梢、茂雄などから描かれて、すごく多角的。だけど、その中心には血縁の話がありってことで、うまく小説として消化されているんじゃないかと思う。
 いずれにしても、初読の瞬間的な感想ですが。