新潮12月号

 平野啓一郎「『フェカンにて』」を読んだ。面白かった。
 主人公の大野が構想中の『フェカンにて』という小説の取材をかねた小旅行をするといった内容だろうか。車窓から見える風景を見ながらも、『フェカンにて』と自らの記憶とを重ねつつ、「死」を考察したり、大野が書いたとされる小説のモチーフを自ら解釈し直したり、『フェカンにて』を大野自ら現実的になぞってみたりする。
 『フェカンにて』を巡る小説、それは、結局、小説を書くことを巡る小説と言えるんじゃないだろうか。大野が自ら書いた小説を解釈しながら新たに『フェカンにて』を構想していくように、平野啓一郎は「『フェカンにて』」を書くことでそのことを成している。